ガタッ!
大きな音がして、ゾロは飛び起きた。
まさか、やらてんじゃないだろうな。
寝室を出ると、たしぎの姿は見えない。
「おいっ!どこに居るんだ!」
大声で呼ぶと、
「ここです!」
と声が聞こえてホッとした。
ゆっくり声の方へあるいていくと、そこはキッチンだった。
たしぎが、なにやら湯気の中で、動いている。
「なにやってんだ?」
「見ればわかるでしょ!夕食、作ってるんですっ!」
声に余裕が感じられない。
「熱っ!」
「えっと、それから・・・なんだっけ?」
たしぎが振り返り、見たノートには
『ロブスターのオーロラソース和え』という名の料理のレシピが
詳しい解説つきで、書いてある。
「へぇ。」
ゾロは、冷蔵庫を開けると勝手に中からトマトを取りだして
かぶりついた。
「あっ、ちょっと!何に使うか、決まってるんですから、
勝手に食べないで下さい!」
もぐもぐと口を動かしながら、たしぎを見る。
「別に、食えりゃ、なんでもいいぞ。」
「・・・・」
たしぎの手が止まる。
「そ、そうですね・・・別に、このとおり作らなくても、
いいんですよね・・・」
「あぁ、塩でもふっとけ。」
茹でたてのロブスターを見ながら、ゾロが言う。
何故か、急に元気をなくしたたしぎにゾロは首をかしげた。
ゾロが、ガチャガチャと皿を並べ始める。
たしぎは、それを少し不思議そうな顔で眺めている。
「なんだ?」
「いえ、ロロノア、手伝ったりするんですね。」
「あ?船じゃ当番制だからな。お前んとこも、そうだろ。」
「あ、そう言えば、そうですね。」
ロロノアと一緒に暮らしたら、
こんな感じなのかな・・・
浮かんだ想像を、かき消すように頭を振り、たしぎは、料理を並べ始めた。
席につくと、ゾロは「いただきます。」と手を合わせる。
一人、顔を赤くしながらたしぎも小さな声で「いただきます。」
とゾロに習う。
こういうとこが、海賊らしからぬ、とういか、なんていうか・・・
いけない、いけない・・・
目の前の料理を口に運ぶ。
ふと、ロロノアを見れば、大きな口を開けて美味しそうに食べている。
こんなふうに、食べるんだ・・・
あ、ダメだ。
いろんな想いに、揺さぶられて、たしぎは、頭がクラクラした。
「あ、そうだ。」
たしぎは、立ち上がると冷蔵庫からガラスの器に入った
薄い桃色のソースを出してきた。
「あの、これ、レシピ見ながら一応作ってみたんです。
よかったら・・・」
遠慮がちに差しだされた器を見つめ、ゾロは
「そんないいもん、あんなら、最初から出せよ。」
と受け取ると、ガバッとかけた。
「うん、旨ぇ。」
満足そうに微笑んだ顔に、ほっとして席に着いた。
もぐもぐと口を動かしながら、バツが悪そうにゾロが呟く。
「ま、せっかく作るってなら、止めねぇぞ。
なんでも、喰うから・・・」
クスッと笑って、たしぎが「ありがと」と小さく答えた。
みしっ・・・
屋根の軋む音に、空気が張り詰める。
はっと、上を向くたしぎ。
「どうやら、やって来たようだな。」
ニヤリと笑うと、ゾロは腰の鬼鉄に手をかける。
「そうですね。」
たしぎも、静かに立ち上がると、時雨を握りしめた。
〈続〉